「おかえり。ごめん、全然気づかなかった」
「うん、ただいま。で、どうしたの?」

にこにこと愛嬌のある顔で私を見つめる。
興味津々って、顔は無邪気な子犬みたい。

「んー……、や、何でもないよ」

肩を竦めてみせる私を横目に、ふーん、と呟いてテーブルに手を伸ばす。
葉書を拾い上げて、それを確認すると、可愛いつぶらな瞳で訊ねてくる。
焦げ茶色のふわふわした髪も相まって、本当に犬のようだ。
よく言えば、某大手芸能事務所アイドル系の顔。

「同窓会?」
「そうみたいねぇ」
「行かないの?」
「……そうだねぇ」

素直じゃない私は、興味のないふりをして。
そんなこと、きっと拓には見透かされているけれど、そらすら気付かないふりをして。
にこにこ笑う君が、背中を押してくれるのを願ってる。
だって拓は、私に甘い。
素直じゃないなぁ。
自分でも呆れる。
だけど、ね。
素直じゃない私は、あなたの前でだけほんの少し、素直になることを覚えたの。
きっと、私の顔は今、とても素直に君を見つめてる。
わかるよ、だって、私を見る拓の目が優しいから。

「行ってくれば?」

迷ってるんでしょ?と、その瞳が言う。
踏み出す勇気をくれるのは、いつだって君の言葉。

「いっといでよ、純ちゃん」

犬顔の拓をまとうのは、優しくてふんわりした雰囲気。
大きな手が、私の頭を撫でる。
私を包み込む、この人が好きだ。

「犬に犬扱いされてもねぇ……」

天の邪鬼な私の言葉にも、拓は笑顔を崩さずに、にっこりと笑っている。
拓とはもう何年も一緒にいて、色んな表情を見てきたけれど、一番笑顔を見てきた気がする。
背中を押された私は、タバコを灰皿に押し付けて同窓会に参加することを決めた。