私の手を包み込む大きな手に少し力が加わる。
くるくると変わるその顔に翻弄されて、悔しい。
さっきまでの真剣な瞳から、犬みたいな顔をくしゃけて笑って、拓はそんなことを言う。
惚れた弱味?
悔しいなぁ、もう。
困ったように笑って、拓の手を反対の手で包み込む。
大きな手、大好きな温もり。
それを感じて、私の心がざわめき出した。
そして同時に穏やかな風が吹く。
今日、感じてきたことの全てが確信に変わっていく。
やっぱり間違っていない。
私が帰る場所はここ。
さっき本多と話したことが全て。
私の気持ちは、ずっとずっと、決まってた。

初恋をくすぶらせてしまっていたのは、それが苦い思い出だったから。
忘れられないように思えていたのは、拓のその優しさにすべて甘えている気がしてならなかったから。
幸せを素直に受け止められなかったのは、自分に自信がなかったから。

今なら、はっきりとわかる。
ずっとずっと甘えてきて、ごめんね。
きっとこれからも、甘えちゃうんだろうな。
こんな私でも飽きずに側にいてくれる?
これからは私も伝えられたら良い。
君が好きだと。
『今』この瞬間に、私が選んで繋いでいく『未来』に、君が居て欲しい。

私が帰る場所は――…


ギュッと掌を握り締める。

「ねーぇ、拓ちゃん?」

少しの照れから、茶化しておどけて言う。

「なぁに?純ちゃん」

優しく答える拓。
やっぱり犬みたいな顔で、おとなしく次の言葉を待っている。

「たーくちゃん、――…結婚、しよ?」

君しか、いないと思うんだ。






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