淹れたての紅茶はまだ熱くて、ふぅふぅと息を吹き掛けるだけ。
熱いのに、そのまま口に運べる拓はすごい。

「……ねぇ、拓。私ってさ、嘘つく前に唇をかむ癖があるって、知ってた?」

私はふと、本多に言われたことを、聞いてみた。
気になったのは好奇心からだ。
我ながら、意地悪な聞き方をしたものだ。
けど、拓は気付いていたのかな?
どうなんだろう。
私自身は気付かずにいたこと。
拓は少し唇を尖らせるようにして考えている。

「うーん」

その時間が、私に小さな不安を甦らせる。
拓は気付いていなかった?
ドキドキと、胸がなる。
不安からかマグカップを持つ手に力が加わる。

ねぇ、もしかしたら。
あのときの私が本多を選んでいたら、また違う未来があったのかな。
本多の方が、私のことを見ていてくれたのかな――…?
そんなこと考えたって、今さらどうしようもないのだけれど。
過去に決別してたのは、ついさっきのことだ。

「それ、前言ってた昔好きだった人に言われたの?」
「そう、だけど」

そう言うと、拓はふにゃっととろけるように笑う。
私はその顔を見て、ポカンと間抜けな顔をして居ることだろう。
拓は満足げに頷いて、口を開いた。