――ガチャリ、扉を開けると間髪入れずに声がする。
とても聞き慣れた、安心する声。

「お帰り!」

その声を聞いて、ほぅ、とため息がこぼれた。
まるで犬が尻尾でも振って歓迎するように、私を玄関先で受け入れてくれる。
にこにこ笑顔とエプロン姿が可愛い。
その顔を見てると、自然に笑顔になれる。
そんな瞬間が好きだな、と思う。

「ただいま」

笑顔で言うと、また笑顔が返ってくる。
私が『ただいま』を言うより先に『おかえり』をくれる人。
そんな人が居る、だから私は、いつだって安心してここに帰って来られる。 
靴を脱いで、続く短い廊下を、その背中を見て歩く。
普段は『いってらっしゃい』とその背中を見送ることが多いけれど、私は、あなたに同じような安心をあげられているだろうか?

「同窓会、楽しかった?」

どうやら洗い物をしていたらしく、流しには泡まみれの食器がいくつか残っていたけれど、拓はそのままエプロンを外し、犬みたいな顔を傾げて、可愛らしい瞳で聞いて来る。 
さては、また作るときにつけて外すの忘れてたな。

「……それなりに、ね」

私は曖昧にひとこと答えて、そのまま流しに立つ。
置き去りにされた泡だらけな食器を水で流していく。
拓は、やるからいいのに、と言ったけど、流すだけ流せば終わるのだから、とそのまま洗い物を終わらせた。
そしてマグカップを取り出して、ティーパックの紅茶を入れる。

「ありがとう」
「ううん、……こちらこそ、ありがとう?」
「どうしたの?」
「……別に。言いたかっただけー」
「ふぅん」

クスクスと、拓は意味あり気に笑い、私からマグカップを受けとる。
テーブルに向かい合うように腰かけて、ふたりの時間が流れた。