「亮太くん、帰るね。コレ会費」

盛り上がっている皆に、水を差さないようにこっそりと幹事の子に声を掛けて、お店を出た。
あれだけやんやと盛り上がっていれば、私ひとり抜けたところで気付かないだろう。
少しほてった顔に、冷たい夜風が気持ち良い。
賑やかなお店を背に、深呼吸をして歩き出そうとした、その時。
ガラリと扉が開き、声を掛けられた。

「……帰るの?」
「本多――…」

振り返ると、あの頃より少し大人になった本多がいた。
驚きながらもにっこりと笑える私も、少し疲れて見える本多も、そのふたりの間に流れる雰囲気も、8年前とは違う。
少しだけ複雑な、大人のものになっていた。

「うん、帰るよ。もうさんざん飲んでしゃべったし。本多はどうしたの?」

上着も着ていないし、まだ来たばかりだ。
帰るには早すぎる。

「ちょっと一服」

胸ポケットから取り出したタバコをちらつかせて言う。
……店内は禁煙じゃなかったはず、と、言外に視線を送ると、降参だと言わんばかりに両手を上げる。
そう言うところ、変わらない。

「ってのは、口実で。……お前の出てくのが見えたから」
「……そっか」

クスリと笑ってそれに答える私もきっと、そんなに変わってない。
変わってない、けど。
本多から出る雰囲気が、あの頃よりも少し、柔らかくなったかな?
みんな少しずつ大人になった。
本多も、私も。
だって、意外と私たち、普通に喋れてる。
複雑に捉えていたのは、過去に囚われていたのは私だけだったのかもしれない。