フレームに収まるように、立ち位置が近くなったときに小さく呟かれた言葉。

「本当はずっと、好きだったんだ」

彼女が居るのに、本多は私にそう言った。
私が、その存在を知らないとでも思っていたのだろうか。
優しくて可愛い、男子部のマネージャー。
部活の合間にドリンクを渡し、仲良く笑い合ってた。
部活が終わると、下校時には手を繋いで帰って、駅で別れる時にキスしていた。

見ているのは辛かった。
だけど嫌でも見えてしまった。
私の視線はごく自然に、本多を探していたから。
見たくないと思った。
それでも、目に入ってしまう。
だからいっそのこと、自分の気持ちを見ないようにした。
ずっとずっと、そうやって友達としてやってきたのに、それを本多は最後の最後で崩そうとして来たのだ。

バカにするにも程がある。
悔しくて悔しくて。

ねぇ、ずっとって、いつからよ?
それならなんであの子と付き合っているのよ?
好きな人じゃなくても、付き合ったりできるの?
気持ちがなくても、キスしたりできるの?
私だって、好きだよ……

そんなことをクルクル考えてしまっていたらいつの間にか、シャッターが切られていて、そこにあるのは周囲の変わらないざわめきとカメラを受け取った本多と私。
写真を撮ってくれた後輩が、他の部員の元へと走ると、私たちはふたり取り残される格好になった。
そこでようやく、私は唇をかんで、掌を握り締めた。
心で一つ息を吐き、にっこり笑って言った台詞は。

「そう?私は好きじゃない」



やっぱり最後まで天の邪鬼で素直になれなくて。
口から出るのは、憎まれ口だった。
ここで私が好きだと返していたら、運命はどこか違うところへと歩いていたのかな?
だけど、男子部員に囲まれながら、少し不安げにこちらの様子をうかがっている、あの子を見たら、そんな勇気はひとつも沸いてこなかった。
……あの日から、本多には一度も会っていない。

若い、淡い、苦い、思い出。