みんな移動してしまって、私はひとり取り残される。
周りには誰もいなくなって、静かだ。
ポリポリと胡瓜の一本漬けをつまんで、少し落ち着く。

「アイツ、居なかったな……」

心で呟いたはずが、ポツリと声に出て自分で驚く。
それをごまかすように、氷が溶けて薄くなった焼酎を飲み干した。
ホッとしたような、残念なような。
複雑で混沌とした私の心。

「すみません、……黒霧島、ロックで」

空になったグラスを店員さんに渡し、そう告げた時だった。
ガラガラ、とお店の扉が開いてお店が活気づく。
入口側を陣取っていた私は、その人の姿をしっかりと確認できた。
中に入って来たのは、紛れもなくアイツ。
この同窓会の知らせが来てから私を悩ませていた、張本人だ。

本多透。

その姿を視界に入れたとたん、一気に学生時代に引き戻されるような、そんな感覚を覚える。

いつまでも燻っているのは、これが苦い、初恋だからだ。