恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

どうやら、あたしがしでかした事の今後は、その妖怪の心ひとつで決まってしまうらしい。


突然、ジリジリと音が鳴り響いた。


電話がかかってきたらしい。


「いー。誰かね」


おばあはのっそりと立ち上がり、受話器を取った。


「ハイサイ(こんばんは)」


びっくりした。


その音よりも何よりも、おばあの電話機に驚いた。


「いー。来ているよー」


スマートフォンやパソコンが復旧している現代で、今時、黒電話を使っている人間が居たことに。


初めて実物を見た。


今はプッシュフォンが当たり前の時代なのに。


ダイヤル式だなんて。


それに、改めて見渡すと、おばあの家にある物はどれもこれも古ぼけて年期の入った物ばかり。


テレビも茶箪笥も、卓袱台も。


生活に困らない、必要最低限の家具しかない。


がらんとした空間。


寂しささえ感じられた。


「ねえ、海斗」


おかわりしたアバサー汁を飲む海斗を小突く。


「おばあの家族は? まだ帰って来ないの?」


ああ、と海斗がお椀をテーブルに置いた。


「おばあはひとり暮らしさ」


「ひとり?」


こくりと海斗は頷いて、電話で話すおばあの背中を見つめた。


「おばあはずーっと、ひとりさ。戦争で、家族を亡くしてからね。旦那さんも子供も、戦争で死んでしまったのさ」


戦争。


胸がチクリと痛くなった。


おばあは戦争を経験したんだ。


平和で贅沢な日本しか知らないあたしには分からないような、壮絶な悲しみを、おばあは経験したのだろう。