与那星島はがっかりするくらい、何もないのだ。


コンビニとかスーパーとかないわけ?


自動販売機すら見当たらない。


それに、あと15分も車で走らないと家に辿り着けないなんて。


東京のひと駅ひと駅の区間だってそんなに掛からないってのに。


同じ日本だなんて……信じられない。


おまけに、無駄に暑い。


「どうだい、陽妃」


「どうって、何が?」


「とても綺麗な島だろう」


確かに、ね。


「ああ、うん」


でも、見事に何もないけどね。


「まあね」


ウインドウから見える海も空も真っ青で。


木々も草も、鮮やか過ぎる深緑色で。


本物のハイビスカスなんて、生まれて初めて見たわけだしね。


確かに、綺麗だと思う。


でも、今のあたしにはどれもこれも全部、眩しすぎる。


「陽妃」


今度は助手席に座るお母さんがサイコロを振ってきた。


「家に着いたら近場を散歩してみるといいわよ。近くに浜があるはずだから。行ってみたらどう?」


「気が向いたら、ね」


あたしは苦笑いして頷いた。


本当は島の景色なんてどうでもよくて。


正直、散歩なんてしたいとも思わない。


あたしの心は、それくらい、萎れきっていた。


「見て、陽妃。さとうきび畑よ」


お母さんが指さす。


あたしはぎょっとした。


「なにこの草!」


そんなあたしをふたりはげらげら笑った。


「だから、さとうきびだよ」


「やあねえ、陽妃ったら」


これが、さとうきびなんだ。


車の高さをいとも簡単に追い越す背の高い草を見たのも、生まれて初めてだ。


そもそも、東京にはこんな草は生えていない。


さとうきび畑のトンネル道を抜けると、古ぼけた家屋が密集していて、ようやく車が停まった。