ふたりには、あたしが渋々着いて来たようにしか見えないと思う。


確かに、その通りだ。


けど、一刻も早く東京を逃げ出したかったのがいちばんだった。


東京で、人を信じる事が怖くなってしまったから。


誰を信じて、誰を疑えばいいのか。


分からなくなってしまったから。


「陽妃」


お父さんがあたしの肩をぽんと弾いてベンチを立った。


「もうじき着くよ」


「そうね。そろそろ中に入りましょう。陽妃も客席に戻っておいで」


とお母さんも立ち上がり、ふたりは仲睦まじく客室へ下りて行った。


「はーい」


あたしはスマートフォンをバッグに放り込んでフウと小さく息をつき、目の前に広がる水面に視線を投げ出した。


「疲れちゃった」


与那星島が少しずつ、確実に、目前に迫っていた。


「神様がいる島、かあ……」


その時はまだ、何も知らなかった。


ぐんぐん近づいて、迫り来るその小さな離島で。


与那星島で。


あたしの未来を変える人たちとの出逢いが待っていたなんて。


まだ何も、知らなかった。














「冗談でしょ……」


与那星島は、ジブリ映画の背景に使われそうな、絵に描いたような田舎だった。


「ねえ、お父さん。まだ着かないの?」


フェリーを下りて車に乗ってからすでに10分以上経っていた。


「あと15分てとこかな」


ハンドルを握り、お父さんはアクセルを踏み続ける。


あたしは後部座席のシートにもたれながら、こっそり溜息を吐いた。


一体、何なの……この島。