恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

海斗の声が僅かに震えて、かすれていた。


「人間に生まれて来なければ良かったさー……」


海斗の手が、頬に触れた。


あたしの頬をすっぽり包み込んだ海斗の手のひらは、やっぱり、ひんやり冷たかった。


「もしさ、おれが人間じゃなくてスーパーヒーローだったらさ」


ハッとした。


海斗の手が、はっきりと震え出したから。


「陽妃に襲いかかって来る悲しみから、陽妃のこと……守ってやれるのにね」


なっさけないー。


そう、海斗は言った。


人間に生まれて来なければ良かった。


人間じゃなくて、スーパーヒーローだったら。


悲しみから陽妃のこと、守ってやれるのにね。


凍てついて、閉ざされ掛けていた何かが、あたしの中で溶けていくのが分かった。


ぽつ、ぽつ……ぽつ。


白い地面に、小さな水滴が落ちる。


でも、それはもう、あたしの髪の毛から落ちる雨水じゃなかった。


あたしの、涙だった。


悲しみから、守ってやれるのにね。


その一言を聞いた途端に、胸が焼けるように熱くなって、雪解けの水のように涙があふれていた。


「陽妃……泣いているの?」


うつむくあたしの顔を、海斗が両手で静かに持ち上げた。


「何で泣いているのさ」


涙で滲んで見えたけれど。


それでも、海斗の瞳は真っ黒で、透き通っていた。


「陽妃は、泣いてばかりいるね」


真っ直ぐ、あたしを見つめてくる。


「海斗、あたしっ……」