恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

あたしの手を掴む海斗の手が、震えていた。


「にぃーにぃー! 持って来たよー!」


美波ちゃんが戻って来るまで、ずっと、海斗はあたしの手首を掴んでいた。


「にふえーでーびる(ありがとう)! 美波ぃ」


美波ちゃんが持って来てくれた大きなタオルで、


「何があったのさあ」


海斗はあたしの髪の毛を必死に拭いてくれた。


タオルからはお日様の匂いとやわらかな柔軟剤の香りがした。


海斗と同じ匂い。


何があったのかなんて、言いたくなかった。


あたしはひたすら口を一文字に結んで、ひたすらうつむいた。


「美波ぃ、家に帰ってろ」


「えーっ! 何でさ。浜に行かんの?」


「今日は中止さあ」


「何で? 何で?」


「何でも! ……そうさ! にぃにぃのアイス、食べてもいいからさあ」


しばらく沈黙があった後、


「そんなら仕方ないっさ」


と美波ちゃんはとぼとぼと帰って行った。


「陽妃」


再び、髪の毛を拭きながら海斗が聞いてきた。


「何があったのか? 何で、手、怪我してるのか?」


言えない。


絶対、言えないよ。


あたしはうつむき続けた。


ふう、と海斗のため息が聞こえた。


「なっさけないさー」


あたしの長い髪の毛をタオルで挟んで、海斗はポンポンと雨を吸い取った。


「なんで、おれは人間なんだろうかねえ」


呟いて、海斗は続けた。