恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「あー! ねぇねぇ!」


海斗の後ろから、ひょっこり顔を出したのは美波ちゃんだった。


これから浜に散歩に行くところだったのだろう。


海斗の足元に落ちた、コーラの缶。


地面に落ちた衝撃で破裂してしまったのだ。


缶からシュワシュワと白い泡が吹き出していた。


やがて泡は白地に吸い込まれていって、大きなシミになった。


「あっきさみよー(びっくりした)!」


慌てた様子で、海斗が走ってくる。


「どうしたのさ! びしょ濡れじゃないかー」


海斗の手がすうっと伸びてきて、雨をふくんだあたしの重い前髪を掻き上げた。


見られたくなくて、あたしはとっさに顔を背けた。


「美波よー。家に戻ってタオル持ってこい! こんままじゃあ、陽妃が風邪ひいてしまうさー」


「いー(はい)!」


「超特急でよ! いいね!」


「分かってるばあ!」


素早く、美波ちゃんが駆け出した。


可愛らしい足音が遠ざかる。


突然、海斗があたしの両手を掴んで、手のひらを上に向けさせた。


「や……何する」


「どういうことか!」


海斗はギョッと目を見開いて、血が滲むあたしの手のひらを見つめた。


「何があったのさ、陽妃」


見られたくなかった。


海斗が顔を上げる前に、あたしはうつむいた。


ぽつぽつ、ぽつぽつ。


髪の毛先から水滴が落ちる。