恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

もう、制御不能だった。


「最低! 最低だよ!」


大我も、ひかりも。


「最低!」


あたしも。


あたしは両手で何度もガジュマルの木を叩いた。


それだけじゃ足りなくて、近場に落ちていた太い木の枝で、ガジマルの木を殴った。


「嫌ーっ!」


気が狂ってしまった哀れな人のように。


キチガイのように。


泣き叫びながら、ひたすらにガジュマルの木を殴り続けた。


「痛っ……」


握力がなくなり、あたしは足元に木の枝を落とした。


両手がビリビリ痛む。


見てみると、手のひらの皮がむけて血が滲んでいた。


ガジュマルの木も皮がはげて、傷だらけになっていた。


「陽妃さん!」


ハッとして振り向くと、雨に打たれながらさっきの彼女が立っていた。


青ざめて、怯えきったような顔で。


「ああっ」


彼女はギョッとした顔でガジュマルの木を見て、愕然としていた。


「なに、追い掛けて来たの? しつこいんだね」


そして、ふらつきながら詰め寄ろうとするあたしを見て、彼女は一歩ずつ後ずさりしてふるふる首を振った。


「陽妃さん、あんた、何やってくれたのさ!」


「何って」


「来るなあ!」


「そんな怯えた顔しなくても」


「わたしじゃあないよ! わたしは木に触ってないからね!」


そう吐き捨てて、彼女は膝をガクガクさせた。


「誰かに災いがあったら、陽妃さんのせいよ! どうしてくれるの!」


責任とってよね! と素早く踵を返して、彼女は走り去った。


「大変ことが起きるば!」


そう叫びながら。