恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

横殴りの雨風で、浜を囲む木々が化け物の咆哮のような音を出していた。


水平線近くに、稲妻が走った。


あたしは立ち上がった。


後ろを振り返る。


あの木。


「……ガジュマル」


―浜にあるガジュマルの木に、触れちゃあならんよー―


こんな風の強い日には。


こんな波が高い日には。


ガジュマルの木に触れたらいけない。


―災いがあるよ―


横殴りの雨が、あたしを叩く。


「……災い」


まるで手招きをするように、ガジュマルの葉がざわざわと揺れていた。


あたしは何かに引っ張られるように、歩き出した。


ガジュマルの木に向かって。


鳴り響く、落雷。


ざわめく、木の葉。


怒り狂う、荒い波。


ゴウゴウ唸る、風。


「ばかみたい!」


海斗の裏の家のおばあちゃんが言っていたことが、もし、本当なら。


災いが起きるのかな。


……起こればいい。


大我に、ひかりにも。


そして、このあたしに。


みんな、不幸になってしまえばいいのに。


もう、周りが見えなくなっていた。


あたしは、ガジュマルの木を睨み上げた。


ゆっくり、手を伸ばす。


―触れたらいかんよ―


こんな風が強い日は、こんな波が高い日は。


あたしは右手のひらでガジュマルの木に、触れた。


ドオーン、と落雷が響き渡った。


心臓が、バクバク、音を立てた。