恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

返して。


大我を、返して。


ひかり、あたしに、大我を返してください。


「もうっ! うるっさい!」


あたしは力ずくで彼女の手を振り払い、夢中で駆け出した。


湿気を大量に含んだ南風に向かって。


「陽妃さん! 待ちなっさー」


無視して、ひたすら走った。


息も絶え絶えたどり着いたのは、与那星島だった。


誰も居ない、浜。


水平線の近くの雲は黒く、今にも雨が落ちてきそうな空。


いつもキラキラ輝いているはずなのに、今日の白浜は灰色に見えた。


背中がぞくりとした。


恐怖を覚えるほど、浜は不気味だった。


いつも静かに凪いでいる水面は、怒り狂ったように唸り声を上げる。


雨の気配を含んだ浜風に煽られながら、あたしは海を見つめた。


ぞくぞくした。


高い波に、のみ込まれそうな気がした。


孤独感が襲ってくる。


もう、疲れた。


悔しくて、情けなくて、唇を噛みながら声を押し殺して、砂の上に膝から崩れ落ちた。


波が高い。


まるで、この島から出て行け、そう言われている気がした。


風が強い。


ここにはお前の居場所なんてない、そう言われている気がする。


ざわあー、と木の葉が不気味にさざめく。


ぽつり、ぽつり、とついに雨が落ちてきた。


その雨は次第に強まり、間もなく本降りになった。


雨風に打たれながら、泣いた。


なんで、あたしは不幸になってしまったんだろう。


普通に生きているだけなのに。


みんな、不幸になってしまえばいいのに。


みんな、不幸に。