恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「最近、毎日、海斗と浜に行ってるって。本当かね」


この集落は小さい。


噂なんて、たちまち広まる。


どこからともなく、彼女に伝わったのだろう。


「本当かね?」


だったら何なの。


「そうだけど」


デニムのショートパンツに付いた白砂を払いながら立ち上がると、彼女があたしの腕を掴んだ。


「お願いがあります」


「なに?」


彼女の目は、必死そのものだった。


必死に、訴えかけてくる。


「海斗に関わらないで欲しいのさ」


「は?」


日差しはひとつも出ていない曇天なのに、蒸し暑くてむしゃくしゃした。


「陽妃さんがこん島に来てから、海斗は変わったが」


くだらない。


「はあ?」


ばかばかしい。


「それとあたしと、どんな関係があるって言うの?」


「大ありさ!」


面倒くさいなあ。


「ちょっと、手、離してくれない?」


あたしが睨むと、彼女は一瞬、たじろぐ様子を見せた。


やっぱり、中学生は中学生だなと思った。


「離さんよ」


でも懲りずに目をつり上げながら、彼女はあたしの腕を掴む力を強めた。


しつこい子。


「陽妃さんが来てからさ、海斗な、様子がおかしい。仲間と遊ばなくなってしまったさ」


「そんなこと、あたしに言われても」


あたしの話なんかお構いなしに、たたみかけるように、彼女は大きな声を張り上げた。


「お願いさ! 海斗を返してください」


返してください?


あたし、海斗を取り上げた覚えはないのに。


返してください、って。


それは、あたしが今一番言いたい言葉なのに。