恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「もう……やだ!」


あたしはスマートフォンを思いっきり投げて、壁にぶつけた。


蓋が外れて、中の電池パックが飛び出し、床に散らばった。


いいな。


うらやましい。


人生もこんなふうに投げ出せたらいいのに。


投げ出して、バラバラに壊す事ができればいいのに。


あたしは家を飛び出した。


むっとした暑さが、更に苛立ちに拍車をかける。


玄関を飛び出した時、


「わっ」


「あがっ!」


家の石垣先で、人と正面衝突してしまった。


「痛ったー」


あたしは思いっきり尻餅をついた。


「あがー……」


その声に顔を上げると、先日、野次馬隊が来た日にあたしに文句を言い去った、あの女の子だった。


彼女は腕をすりむいたようで、その部分をしきりに気にしながら、あたしを睨んできた。


「ごめんね」


差し伸べたあたしの手をバシッと叩いて、


「いらん!」


女の子は自ら立ち上がった。


なんてすごい目力なんだろう。


見るからに年下の彼女に、たじろぎそうになる。


「どこかに行くの?」


彼女に聞かれて、ハッとした。


どこに行く気で、あたしは飛び出して来たんだろう。


行く所なんて、ないのに。


「別に」


ここは、与那星島。


東京じゃない。


真衣も香織も居ない。


頼れる友達なんて、ここには居ないのに。


女の子がずいっと詰め寄ってくる。


「陽妃さんに話があるさ」


「話?」


彼女は頷いた。