「懐かしいなあ……本当に素敵な島なのよ。砂浜は雪が積もったみたいに白くて。ハイビスカスは1年中咲いていて」


そうだよ、とお父さんが口を挿む。


「与那星島は神秘的な島なんだ。神様がいるんだよ」


神様?


バカじゃないの?


「神様って……誰から聞いたの?」


神様なんていないよ。


どこにも、いない。


「新婚旅行の時、とても親切にしてくださったご夫婦が居てね。比嘉さんていうんだけど、その人たちが教えてくれたんだ」


でね、とお父さんが続けようとした時、


「比嘉さん?」


今度はお母さんが嬉しそうな声で割って入ってきた。


「懐かしい。早く会いたいわね」


「それからね……」


全く乗り気じゃないあたしをサンドウィッチの具にして、ふたりはまるで新婚に戻ったかのように会話を弾ませている。


たった一度しか行ったことないくせに。


その、与那星島のことがよほど好きなのだろう。


「比嘉さんが所有している一軒家を貸してくれるって言ってくださったんだよ」


その比嘉さんは、夫婦で観光客向けの民宿を営み、切り盛りしているらしい。


「人手不足だから助かるって言っていたよ」


どうやら、ふたりはその民宿を手伝う事にしたようだ。


「頑張らなくちゃ」


東京では見たことがない意気揚々とした輝きにあふれた目で、お母さんが向こうに見える離れ小島を見つめている。


あたしにはどうでもいい事だ。


ふたりがどんな仕事を始めようと、関係ない。


正直、あたしはそれどころじゃない。


たぶん、今のあたしはどん底だ。