恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

浜へ続くさとうきび畑を歩いていると、前を行く海斗がフンフンと鼻歌を奏で始めた。


夕方なのにまだ強い陽射しが、白い道に降り注いで細かく輝く。


ざわざわと、浜風に揺れるさとうきび。


海斗の鼻歌は意外なほど心地よくて、あたしの心にストンと落ちた。


この曲、知ってる。


「知ってる、その歌」


えっ、と海斗が立ち止まり振り返った。


あたしと海斗の声が、重なった。


「「涙そうそう」」


そして、ふたり同時に微笑んだ。


先に口を開いたのは、海斗だった。


「東京でもこん歌、流行ってたんか?」


日差しを受けて、海斗の黒髪がつやつや輝く。


きれい。


「うん」


あたしは頷いた。


「大流行だよ、てか、大ヒット! みんな携帯の着うたとかにしてたし。あたしの親友の」


ハッとして、その先の言葉をあたしは自らの意志で飲み込んだ。


どうした? とでも聞きたそうに海斗が小首を傾げた。


「あ、何でもない。行こ」


「陽妃?」


「何でもないって。気にしないで。言いたいこと忘れちゃった」


あたしはわざとらしくはぐらかした。


どうしても、その先のことは口に出したくなかった。


あたしの親友のひかりも、涙そうそうを着うたにしてたんだよ。


とか。


あたしの彼氏の大我も同じ。


とか。