恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

マンションは全部ドアで仕切られ、壁だらけで。


窮屈で狭くて、プライバシーだらけだった。


でも、それが当たり前で、それが心地よかった。


この家はどこもかしこも戸はがら空きで、プライバシーの「プ」の字も見当たらない。


でも、開け放たれた戸から夏の風が入って来て、南国とは思えないほど涼しい。


テレビでも観ようかとリモコンを手にした時、家先がなにやら騒がしいことに気付いた。


「なんだろ」


また妙な祭りでも始まったのかな。


あたしはリモコンを投げ出した。


リビングから顔だけを覗かせて、家先の様子をうかがった。


「えっ、何……誰?」


玄関先に居たのは1人じゃなかった。


まだあどけなさが残る男の子や女の子が。集団になって家を覗き込んでいた。


あたしはとっさに戸の裏に身を隠して、耳を玄関先に傾けた。


「本当さ! お父さんが言っとったもん」


「うちの父ちゃんもさ」


「でーじちゅらさんを、海斗がひっくり返らせたあって、言っとったよー」


海斗?


「あーい。あの海斗がそんな大それた事するもんかあ」


「へいた、しょうたも! お前の父ちゃん嘘ついたんじゃないのかあ」


「本当さあ! 嘘じゃないさあー」


「そうさ! 東京から来たちゅらさんを、海斗がひっくり返らせたんさあ」


「そんなら、賭けるかね? 本当にちゅらさんなのかよおー」


「見てみたいよねー。でーじ、ちゅらさんよー」


「誰か、呼んでみなっさあー」