「何ね? 誰か?」


「美波ちゃんから」


あたしは苦笑いしながらスマホを彼に手渡した。


「何ね。何の用かね」


彼は受話口に耳を当てた直後、ぎゃっと声を出しながらスマホを耳から離した。


『何考えとるんですか! スマホも持たないで!』


美波ちゃんの甲高い声がガンガン漏れ出す。


『先生! 聞いてるの! 大至急戻ってください!』


「はあーっさ。何でか?」


彼は明らかにむっとして、美波ちゃんに抗議を申し立てる。


「休憩時間さ! 昼飯もまだ食ってねーしさぁ!」


さらに大きな声が受話口から漏れて聞こえてくる。


『患者さんがでーじいる! 患者さんほったらかして逢い引きしよる医者、どこにいるんかね!』


「あっ、逢い引きぃー?」


『うん、そうでしょ! 今、ねぇねぇといるくせに! 逢い引きさ!』


「違うさ! 休憩時間さ! 奥さんと会って何がいけんのか! それに、葵がいるだろー!」


『島袋先生や午後の往診に行ってる!』


「あい! そうだった! 忘れてた!」


彼は突然血相を変えた。


「エーエー! すぐに! すぐに戻るさ!」


そして、ブツリと電話を切り、


「行くよ!」


とあたしにスマホを突っ返してきた。