「あ……」


「やっぱりここにいたんだね。大事な体、冷えたらどうするのさ。転びでもしたら、どうするんか」


と苦笑いして、あたしの髪の毛をくしゃくしゃなでた。


「へへ。ごめん」


冷たい手のひらがくすぐったくて、あたしはクスクス笑った。


「笑いごとじゃないっさぁ。毎日毎日、心配でたまらんよ、こっちや。危なっかしくて気が気じゃない」


もー、と心配性の彼の白衣の裾が風に揺れる。


「あれ? 診療所は?」


聞くと、彼は大きなあくびをした後、目をこすりながら言った。


「おれだって人間さぁ。休憩、休憩」


「そっか。お疲れ様」


「もーさぁ。昼飯食いに家に戻ったら、陽妃はいない。ああ、ここかもしれないと思ってさ」


「よくご存知で」


あたしは小さく笑って、海の先を見つめた。


「当たり前さ。陽妃が家にいない時や、決まってここに来るからね」


彼も微笑みながらあたしの横で、海の先を眺めた。


あたしのスマホに着信があった。


『ねぇねぇ! そこに先生おるかね』


苛立った口調だ。


「え、うん。いるけど、どうかした――」


『どうしたもこうしたもない! ちょっちゅ代わってくれんね!』


まくし立てるような美波ちゃんの声が、受話口からビリビリ漏れる。