恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

髪の毛を切って。


想い出も、僅かな希望も、全部。


この島に預けて出て行くことでしか先に進めないあたしを、許して。


「何でねー。陽妃ぃ」


だって。


想い出も、期待できない希望も、一緒に東京へ持って行ったらきっと、大変なことになっちゃうから。


想い出にしがみついて、期待できない希望にかじりついて、頑張れなくなってしまいそうだから。


「なんでさ。なんで陽妃はひとりで背負い込むのさ」


それくらいの覚悟がなきゃ、あたしきっと、すぐにへこたれてしまう。


「背負い込んでるわけじゃないよ。ただ、前に進みたいだけ」


これで、4つめの準備が整った。


あと、ふたつ。


「いいさ、分かったよ。わんや、陽妃を応援するさ。親友だからさ」


「ありがとう」


あたしの背中に羽根を付けてくれたのは、夕日のようなオレンジ色の笑顔が良く似合う、大切な親友だった。


「やてぃん……辛くてどうにもならん時やいつでも連絡しーよー。うぬ時や飛んでってやるばぁ。陽妃に会いに行くからさ」


「ありがとう、里菜」


ふたりで見上げた空は雲ひとつ見当たらない、快晴。


須藤陽妃、18歳、春。


卒業式の前日、あたしは生まれて初めて髪を短く切った。


その日、庭のブーケンビレアが満開に咲き誇っていた。










そして、旅立ちの朝がやってきた。


いつも散らかり放題だった部屋は綺麗に片付いている。


あたしの荷物は段ボールに入れられて、もう部屋の片隅に積んである。


あとは運び出すだけだ。


東京都渋谷区。


東京で生活するためのワンルームマンションは、2月に一度お母さんと上京し、律子おばさんも立ち合いのもと、すでに決めてきてある。


ワンルームで狭いけれど、あたしひとりで生活するには十分過ぎる広さだったし、日当たりも良かったのでそこに決めた。


今日は東京へ着いたら律子おばさんと一緒にベッドと冷蔵庫を見に行く約束をしている。