恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

里菜に髪の毛を切ってもらっている間、あたしはずっと目を閉じてこの島に移住して来てからのことを思い返していた。


耳元でハサミの音がするたび、少しずつ背中に羽根が生えて体が軽くなって行くようだった。


失恋した女の子が髪の毛をバッサリ切る。


そんなのベタだし、ばかばかしいとさえ思っていた。


終わった恋のために髪を切って何が変わるっていうの。


過去を消せるわけでもないのに。


そんなことを思ってバカにしていたのかもしれない。


区切りをつけたい、とか。


節目だから、とか。


新しい自分になりたい、だとか。


髪の毛を切ることで新しい自分になれたら誰も苦労してないよ、って。


何かの節目に髪を切りたがる子の気持ちなんて、さっぱり理解できなかった。


でも。


「終わったよ、陽妃」


里菜に肩を叩かれ目を開き、


「どうだね」


手渡された鏡の中に映る自分を見て初めて、その気持ちが分かった。


「別人。誰これ。あたしか」


新しいあたしが、そこにはいた。


腰まで長かった髪の毛は跡形もなく。


顎下ギリギリでぱっつりと切りそろえられたボブヘアー。


人生変わった気がした。


「ありがとう、里菜。あたし、これでやっと前に進める」


首回りが無防備になるほど髪の毛を短くしたのは人生初だった。


「ひとりでもやっていけそうな気がする。東京で頑張れそうな気がする」


鏡を覗き込んで笑ったあたしの背後で、里菜が言った。


「陽妃や何でもひとりで決めてなおすね」


涙に濡れた声だった。


「陽妃や……最初からもう戻って来ないつもりで東京に行ちゅんこと、決めたんやさろ……島にやもう……戻らん気なんしょみ?」


あたしはふふと曖昧に笑って濁した。


戻ってくるよ、なんて嘘、大切な友達にはつけなかった。


「ごめんね。里菜」


全部置いて出て行くあたしを許して。


彼への想いも、想い出も。


全部。