恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「ちばりよー、陽妃ぃ。東京に行っても、ちばりよーさい」


「うん」


「連絡や要らねーらん」


やしが、とおばあは続けた。


「泣きじーになったら、いつでも帰ぇーって来よーさい」


あたしは小さく吹き出して、おばあの背中に言い返した。


「そう簡単に帰って来ないよ。簡単には泣かないって決めたもん」


「そうかね」


「でも……どうしても泣きたくなったら、その時は帰って来てもいい?」


「いー。いつでも帰ぇーって来よーさい。オバァ、待ってるよー」


生きとったらね、そう言って、おばあはあたしに背を向けたままうつむいた。


「生きてるよ。だっておばあ不死身だし。200歳までしぶとく生きそうだもんね」


アハハ、と冗談めかして笑いながら「ねっ」とおばあの肩を叩いてハッと息を飲んだ。


「ちょっと、おばあ……嘘でしょ?」


小刻みに震える、小さな肩。


おそるおそる背後から覗き込むと、おばあが泣いていた。


「寂しくなるさぁ……陽妃ぃ……」


ポチョン、と冷めたお茶におばあの涙が落ちる。


あたしはたまらなくなって、後ろからおばあを抱きしめた。


小さな体だった。


「長生きして。あたしがいつでも帰って来れるように」


83年という長い長い歳月を物語っている、くたびれた小さな体に、わけもなく目の奥が熱くなった。


「陽妃ぃ……」


「だから……その時はまた……アバサー汁作ってくれる?」


あたしの腕の中で、おばあは静かに静かに頷いた。


「あたりメーさぁ。特別うまいヌを作ってやるばぁ」


静かに涙を流すおばあの手に包み込まれた湯呑茶碗の中で、映り込んだ逆さまの三日月が揺れていた。


「カフーアラシミソーリ。カフーアラシミソーリ」










夕餉のあと、


「ねえ、おばあ。もうひとつお願いがあるんだけど」


あたしはおばあに持ち帰ったガラスのブイを見せて、全てを打ち明けた。


海斗と交わしたタイムカプセルの約束も、全部。


そして、おばあに託した。


「もしも、なんだけど」


「いー」


「もしも、いつか、海斗が……」


あたしの最後のお願いを、おばあは快く引き受けてくれた。


夏の星座がひしめき合う、とても静かな夜だった。