恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「かっこいいねって言ったんだよ」


「何がかぁ」


フン、と鼻を鳴らしたおばあの背後で、あたしは小さく笑い続けた。


日没後も、島はまだ仄明るい。


さっきまで風鈴を鳴らしていた西風のいつのまにかおさまり、あたしには虫の鳴き声が響き始めた。


静かに訪れた沈黙の中、あたしは手を止めておばあの背中に言った。


「おばあ」


返事はない。


でも、きっと、おばあは気付いていると思う。


おばあのカンは人並み外れているから。


あたしが今、何を考えていて、何を言おうとしているのか。


おそらく、おばあは気付いている。


「あのね、おばあ」


2回目でやっと、おばあの声が返ってきた。


「いー」


淡い月明かりが縁側にふたりのシルエットを作った。


おばあの小さくて丸まった背中を、月明かりがほんのりと照らす。


とても、静かだ。


「あたし、卒業したら、島を出るね」


小さなおばあの背中が微かに動いた。


「東京に行くね」


あたしはおばあの背中を見つめ続けた。


しばらくして、か細い声が返って来た。


「そうかね」


「うん」


「そうかぁー。ちばりよー(頑張れ)、陽妃ぃ」


いつも無愛想なはずの声はこんな日に限って優しくて。


決心が鈍りそうになる。


「引き止めないの?」


「止めねーらん。オバァが止めてもやーは行くんだろ」


あたしは苦笑いした。


おばあが肩をすくめたからだ。


「ごめんね、おばあ」


「海斗も、陽妃も……みんな島を出て行ってしまうねぇー」


寂しげな声でおばあは言い、すっかり冷めてしまったお茶をズズっと啜った。