恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

あたしは縁側に向かい、正座するおばあの隣に座って外に足を投げ出した。


「浜でね、ルリに会ったんだ」


ズズ、とお茶を啜ったおばあが薄暗くなった空に浮かぶおぼろ月を見上げた。


今日は三日月だ。


「ルリー?」


「おばあ、覚えてるでしょ。目が瑠璃色のネコ」


「……あー、ルリーかぁ。生きとったんかー」


わざとらしいったら。


本当は、分かっていたくせに。


ルリが生きていたことも、子供を産むことも。


ユタのおばあは知っていたんだと思う。


「うん。家族ができてた」


「そうかぁ」


「うん。幸せそうだった。旦那さんも子供もいて」


「そうかね」


そう言って、おばあは湯呑茶碗を置くと、右手で左肩をとんとん叩き始めた。


「最近、肩が痛くてさぁー」


「おばあも歳だねー。あっ、あたし肩揉んであげようか」


「エー、いいさー」


「いいって! あたし、けっこううまいんだから」


あたしはおばあの背後に回り、肩もみを始めた。


思っていたより遥かに細い肩だ。


戦争を経験し、大切な家族を失った悲しみを乗り越えて生きてきた、おばあ。


「何ね。チューや優しいんだねぇ。気持ち悪いばー」


雪が降るさー、なんておばあは笑うけど、最近は滅多に家の外に出なくなった。


疲れやすくなってしまったらしい。


特に、祈祷や占いを行った後なんかは寝込んでしまう日もある。


「ああー、いい気持ちさー」


「ねえ、おばあって、今何歳だっけ」


「やーち、みーち」


83、か。


「そっかあ。まだユタ続けるの? 引退とかしないの?」


肩をもみながら聞くと、おばあはフウと溜息を漏らした。


「しちゃいしがね(したいけどね)。後継者がうらんから。続けらりゆんうちや続けるさぁ」


おばあ、本当に小さくなっちゃったなあ。


「そっか。じゃあ、おばあは生涯現役のキャリアウーマンだね」


あたしが笑うと、おばあはつまらなそうに言った。


「異国ヌ言葉や分からねーらん」