恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「ごめんね。やっぱりあたし、もう少しゆっくりしてから帰る。行って」


葵ちゃんに怒られるよ、と言うと、


「じゃあ、すみません」


海斗は申し訳なさそうに一礼して、


「お盆明けまでこっちにいるつもりなので。またゆっくり話しましょう」


葵ちゃんの元へ駆けて行った。


ふたりは浜の入り口でこちらに向かってぺこっと会釈をして、歩いて行く。


どちらからともなく手を繋ぎ寄り添うふたりは、あたしの視界からゆっくり消えて行った。


誰も居なくなった浜で、あたしは風にあおられてしばらく立ちすくんだ。


何を考えるわけでもなく、抜け殻になったように突っ立っていた。


しばらくそこに立ちすくみふと我に返ると、辺りは一面、オレンジ色に染まり始めていた。


もうじき、空の袂が燃えるように朱くなるだろう。


水面がオレンジゴールド色に煌めいている。


帰ろう。


と、ガジュマルの木から離れようとした時、背後に気配を感じて振り返った。


てち、てち、てち。


小さな足音が聞こえる。


「ニャー」


その時、ガジュマルの木の陰からひょこっと姿を現したのは、美しい毛並みのネコだった。


思わず「あっ」と声が漏れる。


アメリカンショートヘアーに良く似た模様。


そして、その瞳の色を見て、間違いないと確信した。


てち、てち、てち。


ゆっくりと近づいて来たネコは、あたしの足元へ来て頬ずりをする。


体は大きくなっても、その人懐こさは変わっていない。


「やだ、ちょっと。生きてたんだね、お前」


あたしは嬉しくなってそこにしゃがみ込み、大人になった彼女を抱き上げた。


ふわふわやわらかい毛から、ひだまりの匂いがした。


「急に来なくなって心配してたんだから」


「ニャー」


まるで、ごめんね、と言うかのように鳴いた彼女の瞳が、瑠璃色にくるんと輝いた。


「ルリ」


あの雨の夜を境に忽然と姿を見せなくなっていたルリは、すっかり大人の女性に成長していた。


しかも、かなりの美人だ。