恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「葵は、おれのいちばん星なんです、きっと」


ほら。


ね。


やっぱり……ね。


あたしはうつむいたまま奥歯を噛んだ。


「葵と一緒にいると安心します」


胸が潰れるかと思った。


苦しくて、苦しくて、悔しくて。


潰れるかと思った。


「過去のことを思い出せなくて道に迷っていても、葵が手を差し伸べてくれるんです」


耳を塞いでしまいたかった。


いっそ、切り落としてしまいたい。


聞きたくない。


でも、この場から逃げ出すことすらあたしにはできない。


「いちばん星って、夜の始まりの空に一番明るく輝いているじゃないですか。いちばん星を目印に歩いて行けば、道に迷わない気がするんです」


体の中で例えようのない複数の感情が複雑に絡まった状態で、突き上げてくる。


悲しみなのか、嫉妬なのか、判別できないドロドロした汚いモノだ。


グツグツに粟立った血が逆流してくる。


初めて、自分を恐ろしい人間だと思った。


今、顔を上げたら確実にあたしはこの激情を越えにして、海斗にぶつけてしまうだろう。


どうして、葵ちゃんなの。


なんで、あたしじゃないの。


奥歯を噛んで、声が漏れないように必死に堪えた。


「葵がいれば、おれは夜道でも迷わないんだ、きっと」


どうして……あたしじゃないの。


「陽妃さん、おれね、葵と――」


ダメだ。


「海斗」


もう、限界だ。


全部、ぶちまけてやろうか。


全部、全部、全部。


あたしと海斗の過去を、全部。


「あのね、海斗。本当は」


例え、海斗を困らせることになってもいい。


海斗を混乱させて、結果、嫌われてもいい。


もう、何がどうなろうと知ったこっちゃない。


「あの時の紙捨て――」


全てぶちまけて、全部壊してやろうと思った時だった。


神様は、あたしの味方になることを、拒んだ。


「……ー!」


遠くの叫び声が、潮騒のように風に乗って届いた。


「かーいとー!」