恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「そう思えるくらい、陽妃は与那星島が好きってことでしょ。いいね、そういうの。ふるさとがふたつもあるなんて子、なかなか居ないよ。贅沢だね」


あたしは頷いた。


「うん」


「これは強制じゃないから。じっくり考えてみて。もし、陽妃にその気があるなら、いつでも連絡ちょうだい」


「……うん」


「じゃ、お堅い話はもうおしまいだ」


と律子おばさんが両手をパンと打ち鳴らした。


「東京最後の夜だし。何か美味しいもの食べに行こうか」


ずっとコンビニおにぎりだったでしょ、そう言って車のキーを掴んだ律子おばさんに、


「あ。その前にお願いがあるんだけど」


ごめんね、と頭を下げる。


「島の人たちと友達にお土産買いたいんだ。いい?」


「いいよ。東京って言ったらやっぱ、アレ?」


「何?」


「定番の東京ばな奈?」


「あー、絶対言うと思ったあ」


「だって、テッパンでしょ」


「それはそうだけどさあ、面白味がないじゃん」


「じゃあ何にすんの」


「……」


結局、みんなへのお土産は定番中の定番、東京ばな奈で丸くおさまった。











「ウシラシがあったよ」


おばあのところにお告げがあったのは、3日前のことだった。


真夜中におばあがトイレに起きた時だったらしい。


閉めて寝たはずの祈りの間の引き戸がススーっと勝手に開いたのだと、おばあは言った。


「いい知らせさぁ。カフーさぁ」


そう言ったおばあを集落の人たちは、ついにおばあがボケてしまった、と口々にした。


赤ちゃんが生まれる。


と、おばあが言ったのだから無理もない。


島で新婚夫婦はいないし、集落に妊婦さんもいないし、どこの家でもオメデタの話はない。


これでこの島の唯一のユタがいなくなる、と集落の人たちはたいそうがっかりしていた。


8月。


東京から帰って来て、1週間が経っていた。