恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「働いたあとのビールって格別にうまいんだ、これが。忙しければ忙しいほど、達成感ていうの? 最高に気持ちいいんだよね」


「うん」


ビールは飲んだことないけど。


分からなくもない。


バイト後のコンビニのおにぎりが格別に美味しく感じたから。


「でも、やっぱ難しいよ。あたし、テンパってばっかだったし。迷惑かけちゃったし」


「最初は誰でもそうだよ。それは仕方ないことだしね。難しくない仕事なんてないって」


そう言って、律子おばさんは微笑んだ。


「陽妃さ、向いてると思うよ。接客業。仕事してる時のあんた、必死だった。良い顔してたよ」


律子おばさんの言葉は嬉しかった。


「ありがとう」


有頂天になってしまいそうなくらい、嬉しかった。


それは嘘じゃない。


「一緒にこの店やっていかない?」


だけど。


「でも、あたし……やっぱり、簡単に返事することはできない」


だって、ここで働くってことはつまり。


与那星島を出て来なければならないってことだもん。


そんな簡単に、返事はできない。


「おかしいよね……東京はあたしの生まれ育った街なのに。でも、今はもう、与那星島がふるさとに思えるの」


本当に、びっくりするくらい何もないところなんだけど。


でも、その分、空も海も、花も木も、全部が綺麗で。


おばあがいて、美波ちゃんがいて。


あたしには勿体無いくらい、明るくて優しくてちょっとおせっかいで、あったかいふたりの友達がいて。


海斗との想い出がいっぱい詰まっていて。


「大切な人たちがたくさんいるんだ」


うつむいたあたしのところへ律子おばさんが歩み寄って来て、ぽんと肩を叩いた。


「与那星島、か。すごくいいところなんだろうね」


陽妃が羨ましくなった、そう、律子おばさんは言った。


「え?」


顔を上げると、律子おばさんはやわらかな微笑みを浮かべていた。