恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「……ない。やりたいことないんだもん」


こんな事言ってる時期でもないんだけどね、と肩をすくめたあたしに律子おばさんは「来ないか」と言った。


「陽妃さえよければ、来てくれない?」


「へ?」


「ほら、堀北くん。あの子、今年いっぱいで辞めちゃうのよ。一番の戦力だったんだけどねー。引き止めるわけにはいかなくて。残念だけど」


「でも、あたし」


「もちろん陽妃が高校卒業したら。一応、面接試験受けてもらうことになるけど」


「それって、ここで働かないかってことだよね?」


「率直に言うとね。でも、今回みたいなバイトとはわけが違うのよ」


フ、と意味深に口角を上げた律子おばさんは、レジカウンターにもたれ掛り腕組みをしてあたしを見つめる。


「陽妃がこっちに出てくるなら」


その目つきに背筋がしゃんとした。


あたしの知っているイタズラ好きで茶目っ気たっぷりな律子おばさんとは明らかに違う、店を切り盛りするひとりのオーナーとしての強い目つきだった。


「正社員として、この店で働いてみない?」


「……」


「確かにねー。接客業って難しいからね。でも、何て言うの? たくさんお客さんが来てくれて、美味しかったって笑ってくれて。また来てくれたりして。達成感ていうかさ」


律子おばさんはキラキラの目で閉店後のがらんとした店内をたっぷり時間をかけてぐるりと見渡した。


「いろんなお客さんがいるし。注文が多かったり、気難しくて扱いにくかったり。食中毒とか気にしなきゃいけないし」


「うん」


「目が回るくらい忙しくて時々、あーもうやだー、って逃げ出したくなるんだけど」


「うん」


「こうして閉店したあと思うんだよね。あー今日も働いた、やっぱやってて良かったーって」


「うん」


確かに、この1週間すごく充実していて、働くってのもいいかなって思ったのは事実だけど。


同時に、働くことは大変だし難しいと思った。