恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

ヒリヒリ痛む腕に冷たいコップを押し当て冷やしていると、


「ひゃっ」


不意を突かれた。


海斗の手が、あたしの頬に触れた。


海斗の手はひんやり冷たかった。


「あーいっ」


海斗がびっくり顔を近づけてくる。


「こりゃあ熱い!」


近くで見れば見るほど、やっぱり海斗は綺麗な顔をしていた。


女のあたしが嫉妬してしまいそうなほど。


海斗からは、海の優しい香りがした。


「本当に気を付けんとだめさ、陽妃い。熱射病になってしまうばー」


「わっ……分かった」


ち、近い。


人懐こいにも程があるでしょ。


心臓が持たない。


「分かったならいいさ」


フフ、と笑って海斗は後ろの壁にもたれかかった。


扇風機の風でさらさら揺れる真っ黒な髪の毛。


「本当に気を付けないと、ちゅらがーきが台無しさあ」


ぽつりと呟いて、海斗は恥ずかしそうにうつむいた。


「ねえ、ひとつ質問してもいいかな」


あたしが聞いても、海斗は顔を上げようとしない。


うつむいたまま「いいよ」と言った。


「その、ちゅらなんとかとか、ちゅらさんてどんな意味があるの?」


海斗のお父さんも、美波ちゃんも、言っていたけど。


「いいやあ……」


と海斗は困ったような微笑みを浮かべて、さらさらの髪の毛を掻き回した。


「秘密。おれには言えない」