恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「お母さん……お帰り」


机の置時計は19時を指していた。


「どうしたの。何度も呼んだのに返事もしないし。具合でも悪いの?」


心配そうにお母さんが首を傾げる。


あたしはううんと首を振った。


「ちょっと疲れただけ」


「それならいいんだけど」


とお母さんがビニール袋をガサガサさせる。


「新鮮な豚肉いただいたの。これからご飯作るから先にお風呂に入っちゃいなさい」


「お父さんは?」


「比嘉さんと一杯飲んでくるって」


「ふうん」


「だから先にお風呂入っちゃいなさい」


いつまで制服着てるの、とお母さんが部屋を出て行った。


パタリと閉まったドアに「はーい」と返事をして、あたしはのそのそと立ち上がり、スカートから携帯を取り出した。


パサ。


「ん?」


足元に落ちたふたつ折りの紙。


「あ、これ」


浜で海斗から受け取った紙だ。


かなり笑える、って海斗言ってたっけ。


携帯を机に置いて、紙を拾う。


カサカサ開いて、


「……え……」


あたしは立ちすくんだ。


――それ、自分が書いたのかと思うともう恥ずかしくて


――全く覚えがないんですけど、明らかにおれの字なんですよね、それ


……これって。


一瞬止まりかけた心臓が、とくん、とくん、と優しい音を出した。


――後で読んで笑って下さい


――笑える内容なの?


――かなり


ばかじゃないの……海斗。


だってこれ……。


「全然……笑えないよ……」


何度目を通しても、笑えるような内容ではなかった。


ひとつも笑えることは書かれてなかった。


ポツ、と紙の上に滴が落ちて初めて自分が泣いていることに気付いた。


これを見せて、約束覚えてる? 、って言ったら海斗はどんな顔をするだろう。


きっと、困った顔をするんだろうな。


そんなことしたら、海斗を困らせちゃうんだろうな。