恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

海斗みたいに透明な海が。


ううん。


この青くて透明な海みたいな海斗のことが。


「好きだよ」


「おれもです」


夕暮れ迫る最後の光の中で、あたしたちは微笑みを交わした。


どうしてこうなってしまう前に言えなかったんだろう。


今、口にできた言葉を。


海斗に伝えることができなかったんだろう。


こうなってしまう前に言えていたら、何か違っていたのかな……。


夕日が沈んだ水平線は、赤紫色に染まっている。


ふわっと吹いた風は冷たさを含んでいて、秋の気配を含んでいた。


「へくしょっ」


海斗がくしゃみをした。


「風にあたり過ぎたのかな。少し寒くなって来た」


そろそろ帰りましょうか、そう言って海斗はズボンのポケットに両手を突っ込んで、


「あっ」


と右手だけを抜き出した。


「そうだ、これ」


右手に何かを持っている。


「何? それ」


聞くと、海斗は「いや、あの」と慌てた様子で右手をポケットに突っ込んだ。


「何でもないです」


「えっ、今の何? 何で隠すの? 気になる!」


見せて、と右手に飛び付くと、


「それはちょっと無理です! 無理です!」


海斗はあたしから逃げようとする。


「何で! 無理って何! 逆に気になるよ!」


見せて、と迫るあたし。


「いや、本当に無理です! 恥ずかしくて見せられるようなものじゃ――」


と逃げ出す海斗。


すかさずあたしは海斗を追いかける。


「恥ずかしいって何! ますます気になる!」


「本当にダメです!」


追いついたあたしに右腕を捕まえられた海斗は、ポケットから手を抜き出して空高く振り上げて抵抗する。


「ずるい! 届かない!」


あたしはジャンプしてそれを奪い取ろうとするけれど、届かない。


何だろう。


……紙?


「見せてったら!」


「絶対無理です!」


飛び付くあたしを制しながら、海斗が必死に抵抗して駆け出した。


「待ちなさい!」