恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「どうしても思い出せなくて。苦しいんです。しんどいです、この島にいると。この島やみんなにしがみついていたらいつまで経っても前に進めない気がして。前に進むためにこの島を出ます。だから」


美波のこと宜しくお願いします、と海斗はあたしに手を差し出してきた。


「美波は寂しがり屋だし、まだまだ甘えん坊だから。時々、遊んであげてください」


「……うん」


もちろん、とあたしはその手を握り返した。


相変わらず海斗の手はひんやりしていて、あたしの手の熱を静かに奪っていった。


この海の波のように。


あたしの心を浄化するように。


「海斗は……」


ゆっくりと手が離れて、あたしは言った。


「あたしの知ってる海斗はね」


「え?」


「不思議な男の子だった」


「不思議な?」


と、海斗は興味深そうにあたしを見つめてきた。


「優しくて、静かで。一緒に居ると心が浄化されていくの。海斗は、そうだなあ……例えるなら」


その時、波の上を駆け抜けるように吹いて来た風が、あたしの髪の毛をなびかせた。


「例えるなら、クリアブルー色の男の子だった」


「あの、陽妃さん」


それ難しい例えですよ、と海斗は困ったようにクスクス笑った。


でも、他に例えようがない。


「そうだよね。でも、本当に。透明な青色の男の子だったの」


「そうなんですか」


「うん」


「でも、陽妃さんを傷付けていたんじゃないかって、それが気がかりだったから」


「それはないよ。なかった、一度も」


あたしが言うと、海斗は安心したような穏やかな表情を見せて、海を見つめた。


「なら良かったです」


夕日がゆっくりと水平線の向こうに沈んで行く。


空と海からゆっくりと赤みの強いオレンジ色が失われていった。


「綺麗な島ですよね、ここ」


海斗の横顔は微笑んでいるのに、なぜかとても寂しげに、あたしには思えた。


「陽妃さんはこの島が好きですか?」


「うん」


夕日が少しずつ、水平線に沈んでいく。