恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「……大丈夫? 落ち着いた?」


「はい」


海斗が小さく頷いた。


もう、夏が終わろうとしているのかもしれない。


ふんわりと吹いた波風はどことなくひんやりしていた。


「どうしてだろうって思っていたんです。帰って来てから、ずっと」


ゆっくり顔を上げた海斗は、寂しそうな目をしていた。


「葵も平太も章太も、おせっかいなくらい優しくて親切で。いつも一緒に居てくれて。しつこいくらいなのに」


陽妃さんは違った、そう言って、海斗はにわかに微笑んだ。


「陽妃さんはおれを見るとすごく困ったような顔をして、ふっと居なくなるでしょ。おれ、避けられてる気がして」


「えっ」


嘘。


あたし、そんなふうに見えた?


そんなつもりはなかったのに。


目が合えば「おはよう」とか、挨拶はしていたし。


避けたりはしていなかったと思う。


「ごめんなさい! あたし、そんなつもりは……避けたつもりは……」


ないんだけど、と言いかけたあたしに海斗は「いいんです」と微笑んだ。


「ただ、陽妃さんを困らせていたんじゃないかって心配だっただけです」


あたしはもしかしたら、知らず知らずのうちに、海斗に気を使わせてしまっていたのかもしれない。


もしかしたら、避けていたのかも、しれない。


「ないよ。一度も」


あたしは微笑みながら言った。


「海斗と一緒に居て嫌な思いをしたことは一度もない」


「そう……ですか。それなら良かった」


静かに、沈黙が訪れた。


その沈黙を、低い声が途切れさせる。


「陽妃さん」


「なに?」


「おれ、やっぱり、A高目指すことにしました。A高、受験します」


あたしは一瞬、言葉を飲み込んだ。


「那覇に行きます」


海斗の声に迷いは感じられなかった。


「……そう、なの」


「はい。すごく迷ったんですけど。一度この島を出て那覇で心機一転、また一から人生やりなおすっていうか……第2の人生じゃないですけど。新しい気持ちで始めようと思って」


前に進もうと思っています、そう言って、海斗は微笑む。