恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

今、目の前に居るこの人は、本当に海斗なんだろうか。


本当は全く別の人間なのではないだろうか、と。


島の独特な方言ではなく、綺麗な言葉で話すこの人は、一体誰なんだろう。


思わず、ワイシャツの左胸ポケットを確認してしまった。


【3年1組 比嘉 海斗】


横長のネームプレートを確認して、海斗なんだよな、と現実を突き付けられる。


「陽妃さん……陽妃さん?」


「……えっ」


ハッとして顔を上げると、海斗が不思議そうな顔であたしを見つめていた。


「どうしたんですか?」


やっぱり、海斗だ。


真っ黒な瞳にときめいてしまう。


ばかみたいにドキドキしてしまう。


「何でもない」


それより、とあたしははぐらかすように目を反らした。


「呼び捨てでいいのに」


「そんなことできないです。陽妃さんは年上なんですから」


「あ……それも、そうか」


胸が締め付けられる。


ズキズキした。


そうか。


今の海斗の心の中に、あたしはいないんだ……。


陽妃、から、陽妃さん、になってしまった。


隣の家に住んでいる年上の人になってしまった。


海斗のひと言ひと言に現実を思い知らされる。


「陽妃さん」


海斗があたしの制服を指さしながら聞いてきた。


「その制服って石垣島のN高ですよね?」


「あ、うん。そう」


「大変じゃないですか? 毎朝、早起きして通うのって」


「うん。それはまあ。でも、楽しいから。友達も一緒だし」


すると、海斗は意味深な表情を浮かべた。


「おれ、N高を受けようとしていたみたいなんです」


ドキ、とした。


「この前、先生から聞きました。本当は那覇のA高を志望していたのに、急にN高に変えたこと。本当にそれでいいのか、って聞かれました」


「そう……なんだ」


ぎこちなく返したあたしを海斗は真っ直ぐに見つめてくる。


何かを問いたげな目だった。


心の中を読まれてしまいそうで、怖くなってふいっと目を反らすと、海斗が小さく笑った。


海斗の質問は、唐突なものだった。