恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「陽妃さん、絶対にみーを反らさんかったでしょ。一度も反らさずに、わんの話聞いてくれたでしょ。そんな人にやかなわんよ」


そう言って、葵ちゃんは「時間やさから」とターミナルに向かって歩いて行く。


高く昇り始めた太陽の陽射しが、葵ちゃんの背中に燦燦と降り注ぐ。


「葵ちゃん!」


呼び止めると、葵ちゃんは自動ドアの手前で立ち止まり、振り向いた。


「気を付けて帰ってね」


とあたしが小さく手を振ると、


「ありがとう」


ぺこっと頭を下げて葵ちゃんは開いたドアに入りかけて、


「あ」


とまた振り返った。


「やさ。陽妃さん」


「何? どうしたの?」


「先週さ。先生がさ那覇の病院にお見舞いに行って来ちゃんだって。そしちゃんら、海斗さ言ってたらしいよ」


やわらかな風が吹いて、葵ちゃんが微笑む。


「――」


「……え」


「言ってたんだってさ、海斗」


それって陽妃さんのことだよね、そう言って、葵ちゃんは今度こそターミナルの中へ入って行った。


葵ちゃんの姿が見えなくなったのを確認して、あたしは学校に向かって歩き出した。


遠くに、チャイムの音が聞こえる。


学校の近くまで来て、あたしは立ち止まった。


突然、ぶうわっと風が吹いて誰かに背中を押された気がしたのだ。


でも、振り返ったところでそこには誰も居なかった。


アスファルトが陽射しを跳ね返す。


あたしは額に滲む汗をぬぐって、ふうと息を吐いた。


海斗さ言ってたらしいよ、葵ちゃんが言っていた。


絶望の中に、か細いひとすじの希望が見える。


もしかしたら、と。


――先生……おれ……誰かと約束をしているような気がするんです


小さな小さな可能性が見えた気がする。


もしかしたら、海斗は思い出してくれるんじゃないか、と。


――でも……どうしても思い出せないんです


海斗は記憶を取り戻すかもしれない。


――毎日、思い出そうとしているのに……