恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

あの時のあたしには、まだ何も分からなかった。


この不思議だらけの島で待っていた、あたしたちの未来なんて……何も。













その夜、あたしたち家族の歓迎会を兼ねた与那星島独特の、宴が始まった。


集落の大人たちがこぞって集まり、


「須藤さん、メンソーレ! 与那星島!」


陽気な一夜になった。


「これ、分かるか? 泡盛よおー」


「うまいさー」


飲めや飲めや、と大人たちはぐいぐい酒を飲み交わす。


2軒隣の渡嘉敷(とかしき)さんちのおじさんが、


「気分が良くなってきたさあ」


と突然、赤ら顔で踊り出した。


「お、いいねえー」


と比嘉さんがどこからともなく見た事のない楽器を持ち出し、音色を奏でる。


三味線のようで、また少し違う、陽気な音色だ。


チャッカチャッカ、チャッカ、チャッカ。


その音色に合わせて、みんなが踊る。


「さあさあ、須藤さんも一緒に」


今日初めて会ったっていうのに、この島の人たちはなんて人懐こいんだろう。


昔からの顔なじみのように、もう打ち解けている。


いいなあ、大人は気楽で。


テーブルの上にからりと並ぶご馳走を部屋の隅で見つめながら、あたしはちびちびとジュースを飲んでいた。


「陽妃も、一緒に踊って来るといいのによう」


にこにこしながら、海斗が隣に座った。


「美波も、楽しそうに踊っているよー」


本当だ。


酔っ払いの大人たちにうまく紛れ込んで、美波ちゃんはキャッキャとはしゃいでいた。


「あたしはいいよ。遠慮しとく。海斗こそ行って来たら?」