恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「こういうどぎつい赤はもう少し大人になってからでいいじゃん。こっちの方が似合うと思うから」


とあたしは口紅を葵ちゃんの前にすうーっと滑らせた。


「葵ちゃんは目ぱっちりだし。あたしと違って可愛らしい顔立ちだもん。似合うと思う。こういうピンク色」


あげるよ、そう言うと、葵ちゃんは恐る恐る手を伸ばし、口紅に触れた。


「……いいの?」


「うん。葵ちゃんが嫌じゃなけれ――」


「あっ、ありがとう!」


食い気味に大きな声を出して、


「大切んかいさびら! ありがとう、陽妃さん!」


葵ちゃんはにっこり微笑んだ。


葵ちゃんの屈託のない笑顔を見たのは初めてで、ドキドキしてしまった。


元気に笑う子なんだ、そう思った。


「うわぁー。かわいい色さー。ちゅらかーぎー」


きゃっきゃとはしゃぐ葵ちゃんは本当に可愛らしくて。


無邪気で。


彼女の印象は180度がらりと変わってしまった。


「陽妃さん、じゅんにありがとう」


そう言って、葵ちゃんは口紅を握り締めてあたしに頭を下げて笑った。


「うれしい」


「ううん」


肩から要らない力が抜けて行くのが分かる。


なんだ。


いい子じゃん。


すごく、いい子じゃん。


そうこうしているうちにフェリーの時間が近くなり、あたしたちは喫茶店を出て、ターミナルまで戻ることにした。


来た道を戻りながら、葵ちゃんは今年の6月に結婚したという担任の先生のことを話し始めた。


「まだ若くてさ。かっこよくてさ、優しくてさ。でーじ人気のある先生でね」


「うん」


「わんたち聞いてみたの。先生の奥さんやどんな人ですか、って」


先生は恥ずかしそうにはにかみながら答えたらしい。


「いちばん星みたいな人やっさー、だって」


「イチバンボシ? って、あの、夜空にあるやつ?」


と空を指さしながら聞くと、葵ちゃんは「やさ」と頷いた。


「先生さ、言ってたんだしよ」