恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「くぬ口紅。陽妃さんみたいに綺麗な人になったら、海斗に振り向いてもらえるかもしれんと思って。勇気出して買ったんやしが」


やしがさ、と繰り返しながら葵ちゃんは苦笑いした。


「わんにや全然、似合わねーらんぬ。陽妃さんみたいな綺麗な唇にならないの」


なんでかねぇ……と小首を傾げながら口紅を見つめる葵ちゃんを見て、あたしは吹き出してしまった。


「当たり前じゃん」


別に、嫌味を言ったわけじゃない。


葵ちゃんの気持ちを分からないわけじゃなかったからだ。


「そんなどぎつい真っ赤な色、葵ちゃんに似合わないよ」


「えっ」


「すっごい真っ赤じゃん、それ」


なんだか、すっごく分かるなあ。


葵ちゃんの気持ち。


前に、あたしも同じことをした記憶がある。


「ちょっと待って。確か……まだあるはず」


あたしは鞄からメイクポーチを取り出した。


そして、繰り出しの口紅を出して、葵ちゃんに差し出した。


「1回だけ使っちゃってるんだけど」


もう半年も前にマツキヨで買った、淡いベビーピンク色の口紅だ。


「これ、あげる」


「あいっ」


なんで? 、と聞きたげに葵ちゃんが見つめてくる。


悔しいから、本当の理由は言いたくない。


「嫌じゃなかったら使って」


どちらかと言えば、あたしは男顔で。


宝塚で例えるなら、完全に男役で。


ひかりみたいに可愛らしくなりたくて、こっそり買ったベビーピンク色の口紅。


いつもヌーディなベージュ系しか使わないあたしにとってこの色は、かなりの大冒険だった。


でも、いざつけて鏡に映る自分を見てげんなりしたことは、今でもはっきり覚えている。


あまりにも似合わな過ぎて失笑したっけ。


あたしが差し出した口紅を見つめる葵ちゃんは、確かに中学生にしては大人っぽい方だ。


でも、どちらかと言えばひかり寄りの可愛らしい顔立ちだと思う。