恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「与那星島にやこんなに綺麗な人や居ねーらんたんもん。陽妃さんが来てから平太も章太も……みんなみんな“でーじちゅらさん”の話ばかりする」


「はあ? あたし?」


ナイナイ、とジェスチャーしてからから笑うと、葵ちゃんはふるふると首を振った。


「わんも思ったもん。キレイナヒト、だって」


葵ちゃんは真っ赤な口紅に視線を落としながら、続けた。


「陽妃さんや綺麗でかっこよくてさ。わんがどんなに生意気言っても動じなくてさ、余裕があってさ……くぬ人にや絶対叶わないって思って。悔しくてさ。大嫌いなのに……やしが、本当や憧れていたんだしさ」


「え……」


意外だった。


てっきり、もう、端から心底嫌われているのだとばかり思っていただけに。


「わんや陽妃さんに憧れてるからさ」


だから、戸惑ってしまった。


本気で嫌われているんだと思っていたから。


「わんの知ってる陽妃さんや、いつも冷静で大人だからさ……やさから、びっくりしちゃん」


「え?」


うりー、こん前のことさ、と葵ちゃんが言った。


「おばあの家に人だかりができちゃんからさ、行ってみちゃん。陽妃さんがわらばー(子供)みたいに泣いてたから、びっくりしちゃん」


「あ、ああ……」


あの日のことか。


台風の翌日、病院から帰った日のことだ。


「人間があんなふうに泣いてるとこ、初めて見たんだしさ。やさから、びっくりしちゃん。こん人やじゅんに(本当に)海斗のことが好きなんだ、って……わんの負けさって」


そう思った、そう言って、葵ちゃんはまたうつむいてしまった。


時間がゆっくり流れていく。


外はもうカンカン照りで、人の通りも増え始めている。


でも、店内は音を失ったように静かで。


ここだけが別世界なんじゃないかと勘違いしてしまいそうになる。


しばらく沈黙が続いたあと、


「これ、さ」


と葵ちゃんが口紅にそっと触れた。