「……という事なので。10時のフェリーで帰るので、ターミナルまで迎えに来ていただけますか?」
葵ちゃんには母親がいない。
数年前に離婚して、母親は本島の宜野湾市にある実家に帰ったらしい。
電話に出たのは父親で、あたしにひたすら謝ってばかりいた。
「はい、分かりました。いいえ。じゃあ、失礼します」
借りて来た猫とはまさに、今の葵ちゃんを言うのだろう。
事情を説明し、電話を終えて、
「お父さん、学校に連絡入れてくれるって。午後から登校するって言ってくれるみたい。あと、ターミナルまで迎えに来てくれるって」
怒ってなかったよ、そう伝えると、葵ちゃんはほっとした様子で「ありがとう」と小さな声で言った。
喫茶店内はとても静かで、客はあたしたちだけだった。
木目調のシックな店内はこじんまりとしていて、日当たりが良く、コーヒーのこうばしい香りがふわふわと漂っていた。
「で」
あたしはコーヒーを啜って、カップをソーサーに置いた。
「今日はどんな用件で?」
「あい?」
うつむき加減だった葵ちゃんが顔を上げた。
「だって、こんなとこまで尾行して来たんだもん。何かあるからついて来たんじゃないの?」
すると、葵ちゃんは少し黙り込んだあと、おもむろに鞄からそれを取り出し、テーブルの上にコトンと置いた。
それ、は舞妓さんが使うような艶やかな赤色の口紅だった。
「何、これ」
おこずかいを貯めて初めて買った化粧品だ、と葵ちゃんは言った。
「悔しかったの」
ぼそっと呟いて、葵ちゃんは唇を噛む。
「へ?」
間抜けな声を出したあたしをじっと見つめながら葵ちゃんが言った。
葵ちゃんには母親がいない。
数年前に離婚して、母親は本島の宜野湾市にある実家に帰ったらしい。
電話に出たのは父親で、あたしにひたすら謝ってばかりいた。
「はい、分かりました。いいえ。じゃあ、失礼します」
借りて来た猫とはまさに、今の葵ちゃんを言うのだろう。
事情を説明し、電話を終えて、
「お父さん、学校に連絡入れてくれるって。午後から登校するって言ってくれるみたい。あと、ターミナルまで迎えに来てくれるって」
怒ってなかったよ、そう伝えると、葵ちゃんはほっとした様子で「ありがとう」と小さな声で言った。
喫茶店内はとても静かで、客はあたしたちだけだった。
木目調のシックな店内はこじんまりとしていて、日当たりが良く、コーヒーのこうばしい香りがふわふわと漂っていた。
「で」
あたしはコーヒーを啜って、カップをソーサーに置いた。
「今日はどんな用件で?」
「あい?」
うつむき加減だった葵ちゃんが顔を上げた。
「だって、こんなとこまで尾行して来たんだもん。何かあるからついて来たんじゃないの?」
すると、葵ちゃんは少し黙り込んだあと、おもむろに鞄からそれを取り出し、テーブルの上にコトンと置いた。
それ、は舞妓さんが使うような艶やかな赤色の口紅だった。
「何、これ」
おこずかいを貯めて初めて買った化粧品だ、と葵ちゃんは言った。
「悔しかったの」
ぼそっと呟いて、葵ちゃんは唇を噛む。
「へ?」
間抜けな声を出したあたしをじっと見つめながら葵ちゃんが言った。



