恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

人通りの少ない路地。


風に揺れる街路樹の葉。


時々、塀や電柱にひゅっと隠れたりしながら、彼女はどこまでもついて来る。


あたしが角を曲がれば、彼女も曲がる。


あたしが立ち止まれば、後方の足音も止まる。


歩き出すと、彼女もひたひたと歩き出す。


彼女は上手くやれている気分に浸っているだろうけれど、バレバレだ。


歩き始めて5分と少し。


真っ直ぐの道の塀を右に曲がり、あたしは小さな喫茶店の前で立ち止まった。


「学校は? 休んだの?」


言いながらゆっくり振り返ると、今曲がった塀の陰からおずおずと躊躇いがちに、彼女は出て来た。


真っ白なワイシャツに、臙脂色の棒タイ。


制服姿の葵ちゃんだった。


都合悪そうにもじもじする葵ちゃんに「何してるの」と微笑んでみる。


彼女は小さくうつむき、しゅんとしながらあたしを見てきた。


「気付いてたの?」


「ずっとね」


「何さ……バレてたんか」


肩をすくめる葵ちゃんの声に、いつもの気の強さはなかった。


「尾行するなら、もっと上手にやりなさいよ」


「……ごめんなさい」


素直に謝るなんて、葵ちゃんらしくない。


か細く弱弱しい声だった。


「この事、家の人、知ってるの?」


聞いて、呆れてしまった。


葵ちゃんはいつもより早く家を出て、与那星のターミナルまで自転車で向かい、あたしを待ち伏せし、石垣島まで着いて来てしまったらしい。


「朝ごはん食べて来たの?」


聞くと、彼女はただ弱弱しく首を横に振るだけだった。


「しょうがないな」


あたしは葵ちゃんの手を引いて喫茶店に入り、トーストとコーヒーを注文した。


葵ちゃんは抵抗することなくあたしについて来た。


「お金はどうしたの?」


「お年玉の残りがあんから」


「帰りの分は? あるの?」


「うん」


家の人に連絡するからと聞けば素直に電話番号を言うし。


運ばれて来たバタートーストを食べて、コーヒーにミルクとお砂糖を3杯たっぷり入れて飲むし。


葵ちゃんは気味が悪いくらい大人しく、素直だった。