恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

「にぃにぃの同級生たちが話しとった。チヌー(昨日)もさ、ナッチャンのお母さんから大変だねーって言われた」


美波ちゃんがそおっとあたしの手を握ってきた。


小さな温かい手。


「やしが、心配さんでね。ねぇねぇ」


そう言って、美波ちゃんは微笑む。


「え……?」


「心配さんでいいさ」


今度はにっこり微笑んで、今度は自分の番だ、そう美波ちゃんは言った。


「宿題手伝ってくれた。縄跳びも自転車も、にぃにぃのおかげでできるようになったんだしさ。美波が泣くと、いつもにぃにぃが助けてくれたしさ」


今日も暑くなりそうだ。


ぐんぐん、気温が上昇し始めてきた。


陽射しがきつくなってきた。


「いつもいつもさ。美波、にぃにぃに助けてもらってばかりだったからさ。だから、帰ぇーって来たら」


今度は美波がにぃにぃを助けるんだよ、


そう言って、美波ちゃんはあたしの手を引っ張った。


「帰ぇーろう」


美波ちゃんは、すごいな。


えらいなあ。


「やさからさ、ねぇねぇや何も心配さんでいいよ。にぃにぃのことや美波にまかせて。ねぇねぇやいつも笑っていてくれたらいいんだしさ」


あたし、一体、何やってるんだろう。


情けなくて、恥ずかしくて、たまらなくなった。


「ねっ! やさから元気出して、ねぇねぇ」


美波ちゃんは笑っているけれど、本当は無理をしているに違いない。


無理していないはずがない。


まだ小学3年生なのに。


心を痛めていないわけがないのに。


そんな様子を見せようとせずに笑うこの子は、なんて幼気で健気なんだろう。


「美波なんてさ、いつも忘れ物するよ。教科書でしょ、体操着でしょ、笛でしょ。やさからさ、にぃにぃもすぐに思い出すさ。にぃにぃ、勉強できるしさ。忘れるはずないもん」


本当は、不安なんだ、みんな。


でも、信じようとしている。


信じることしかできないんだから。


なのに、あたしときたら。


どうすればいいのか分からなくて。


前に進むことができなくて。


信じようとすることもできなくて。


情けない。