恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

――アヌ子さ、覚えてねーらんだしよ。チヌー(昨日)ヌかじふちのことも、わー(自分)が何をしていたヌかも、覚えてねーらんだしよ


――どこも怪我してないしさ。やしが、おかしなこと言うもんやっさーから、一応、診てもらおうと思ってね


――そしちゃんら、頭の後ろに大きなコブができちゃん。何かに頭打ったんやんやー


日曜日の院内のレストランはがらんとしていて、あたしたち以外に誰も居なかった。


海斗のお母さんはアイスコーヒーを頼んだのに、一口も飲まずに不安そうに肩をすくめていた。


――海斗、覚えてねーらん


――わーとやーにんじゅ(自分と家族)以外ヌ人ヌことが記憶から消えてしまったみたいさ。どぅし(友達)ヌこともおばあヌことも、分からねーらん、って……


――先生や“記憶障害やんやー”って……


――何をどれくらい忘れてしまったのかや、詳しい検査してみないと分からねーらんやしが


――知らん人みたいさ。言葉まで綺麗になって……島の言葉も忘れてしまったみたいさ


あの凄まじかった台風は、たった一夜にして、奪って行った。


海斗の記憶のほとんどを。


奪って行ってしまった。


――さてね。これからがでーじなってる(大変だ)……どうしようね、これから


――みなさんに迷惑かけてなおすね


――美波、また傷ついてなおすよね……泣いてなおすよね……


――大好きなニィニィがこんなことになってなおすなんてさ。まだ小学生ヌ美波にや辛い現実だしよ


おそらく、頭を強く打ったのだろう。


それしか思い当たる原因は思いつかない、と担当の医師は言っていたそうだ。


もっと専門的な検査をしないといけない、と。


――那覇ヌ病院に紹介状書いてくれるってさ


海斗はこれから2、3日、石垣島の病院に入院し、その後、本島の大きな総合病院に転院することになるらしい。


――わんやこれから付きっ切りになるしさ。そヌ間、美波をゆたしくね(よろしくね)。迷惑かけてなおすしが、うにげぇね(お願いね)