「あの……誰ですか」
一瞬、固まってしまった。
「……え……?」
今、何て? 、とあたしが右へ首を傾げると、海斗もあたしと同じ方向に首を傾げた。
「誰、ですか」
あたしは思わずガタッと音を立てて、立ち上がった。
しん、と水を打ったように静寂に包まれる病室。
「陽妃ちゃん」
優しい声に背中を叩かれ振り向くと、
「ちょっと、いいかね」
廊下から手招きをしていたのは、海斗のお母さんだった。
その日の夕方のフェリーに、あたしは乗っていた。
病院からはバスで来たはずだ。
でも、何というバス停で乗って運賃はいくらだったのかまでは覚えていない。
あの嵐が嘘だったかのように波は穏やかで、夕日色に染まっている。
昨晩の台風はもしかしたら夢だったんじゃないか。
もしかしたらあたしは悪い夢を見ていたんじゃないか。
そう思わずにはいられないほど、船窓越しに見える波頭は金色に煌めいて美しかった。
「スグル、外に出てみようぜ!」
「待って、お兄ちゃん!」
船室内で追いかけっこしていた観光客の兄弟が、デッキに飛び出して行った。
「こら、走らない! 危ないでしょう!」
待ちなさい、とふたりを追いかけて行く母親。
父親はガイドブックに夢中で、見向きもしない。
あたしはゆりかごのように揺れる船室で、魂を抜かれたように呆けていた。
頭の中はいろんなことが駆け巡ってパンク寸前なのに、心はすっからかんだった。
まるで洞窟のように心にぽっかりと穴が空いてしまったような、不思議な感覚だった。
――わっさんね、陽妃ちゃん
海斗のお母さんの第一声は「ごめんね」だった。
1階のレストランで、海斗のお母さんは教えてくれた。
一瞬、固まってしまった。
「……え……?」
今、何て? 、とあたしが右へ首を傾げると、海斗もあたしと同じ方向に首を傾げた。
「誰、ですか」
あたしは思わずガタッと音を立てて、立ち上がった。
しん、と水を打ったように静寂に包まれる病室。
「陽妃ちゃん」
優しい声に背中を叩かれ振り向くと、
「ちょっと、いいかね」
廊下から手招きをしていたのは、海斗のお母さんだった。
その日の夕方のフェリーに、あたしは乗っていた。
病院からはバスで来たはずだ。
でも、何というバス停で乗って運賃はいくらだったのかまでは覚えていない。
あの嵐が嘘だったかのように波は穏やかで、夕日色に染まっている。
昨晩の台風はもしかしたら夢だったんじゃないか。
もしかしたらあたしは悪い夢を見ていたんじゃないか。
そう思わずにはいられないほど、船窓越しに見える波頭は金色に煌めいて美しかった。
「スグル、外に出てみようぜ!」
「待って、お兄ちゃん!」
船室内で追いかけっこしていた観光客の兄弟が、デッキに飛び出して行った。
「こら、走らない! 危ないでしょう!」
待ちなさい、とふたりを追いかけて行く母親。
父親はガイドブックに夢中で、見向きもしない。
あたしはゆりかごのように揺れる船室で、魂を抜かれたように呆けていた。
頭の中はいろんなことが駆け巡ってパンク寸前なのに、心はすっからかんだった。
まるで洞窟のように心にぽっかりと穴が空いてしまったような、不思議な感覚だった。
――わっさんね、陽妃ちゃん
海斗のお母さんの第一声は「ごめんね」だった。
1階のレストランで、海斗のお母さんは教えてくれた。



