恋蛍~クリアブルーの風に吹かれて~

ぐるりと一面、真っ白な壁。


西向きの窓。


殺風景で日当たりのいい個室に、海斗はいた。


ベッドの上で上半身だけを起こし、窓の外を眺めている。


台風の名残を残して曇っていた空は晴れ渡り、窓辺にはたっぷりの陽射しが射し込んでいる。


あたしは壁を2回だけ、コンコン、と軽く叩いた。


海斗がゆっくりと振り向いた。


「あ」


と小さく声を漏らして、海斗は真っ黒な瞳をくるくるさせた。


あたしはほっと胸を撫で下ろす。


顔は傷ひとつ付いていないし、怪我をしている様子も見受けられない。


良かった……。


お母さんは“おかしいらしい”とか“へんな事を言うらしい”なんて言っていたけど。


どこからどう見ても、いつもの海斗だった。


「海斗」


声を掛けると、海斗は微かな微笑みを浮かべ、小さく頷いた。


「そっち行ってもいい?」


「うん」


ほら。


声だっていつもと変わりないじゃない。


「入院したって聞いて、心配したんだよ」


あたしはベッドの横の丸椅子に腰かけて、海斗に微笑みかけた。


海斗も微笑み返してきた。


お母さんは何を聞いたんだろう。


どこがおかしいのよ。


いつもの海斗じゃん。


「ごめんね、海斗」


「え?」


でも、お母さんが言っていたことの意味を知るまで、そう時間はかからなかった。


「あたしね、昨日、フェリーに乗り損ねちゃって」


海斗の異変に気付いたのは、この直後だった。


「携帯、学校に忘れちゃって。取りに戻ったの」


と事情を説明するあたしの顔を、海斗がじーっと見つめてくる。


興味深そうに、好奇心たっぷりの瞳で。


あまりにもじろじろ見つめてくるものだから、なんだかくすぐったくて、吹き出してしまった。


「なに、あたしの顔に何かついてる?」


「ううん」


ふるるっ、と首を振った直後の海斗の言葉に、あたしは耳を疑ってしまった。